「天空の城ラピュタ」のネタバレと考察。戦争を忘れてはいけない。バルスは存在しないのだから
目覚ましい発展を遂げる文明の裏には常に軍事が影を潜めている。どれだけ文明が発達しても、人は地球から離れて生きていくことはできない。 今回ご紹介する「天空の城ラピュタ」は、文明の終焉を描いた作品である。
作品テーマ:「軍事開発と文明の進歩」
舞台は第一次産業革命
主人公のパズーはスラッグ渓谷の鉱山で働く見習い機械工だ。
町には電気はなく石炭による蒸気機関が主なエネルギー源だった。
地上を支配していたラピュタ帝国
パズーは父親が見たというラピュタの実在を証明することを夢見ていた。ある日空から落ちてきた少女シータと出会い、700年以上前に滅んだとされるラピュタを目指すことになる。シータが持っていた飛行石は高い科学技術で作られていた。ラピュタ帝国はかつて、圧倒的に高い科学力で天空から全地上の世界を支配していたのだった。
コラム:産業革命とは?
産業革命(さんぎょうかくめい、英: Industrial Revolution)は、18世紀半ばから19世紀にかけて起こった工場制機械工業の導入による産業の変革と、それに伴う社会構造の変革のことである。(Wikipediaより) また、産業革命は現在四段階ある。一般に産業革命というと第一次産業革命のことを指す。
- 18世紀末からの水力と蒸気機関による工場機械工業導入の第一次産業革命
- 20世紀初頭の電気による大量生産が可能になった第二次産業革命
- 20世紀後半の電子技術によるIT化、ファクトリーオートメーションの第三次産業革命
- 21世紀のIoTやAIに代表される第四次産業革命
文明の裏には常に戦争が影を潜めている
それでは、天空の城ラピュタとは何か? 飛行石の力を利用して浮遊するラピュタは、高度な文明のメタファだ。
ラピュタは高度な文明のメタファ
確かに上空から見ればラピュタは高度な文明にしか思えないだろう。そこでは豊かな生活が営まれていたことが想像される。しかし忘れてはいけないのは、その高度な文明の下には兵器が備え付けられているということである。文明は兵器の開発によって進歩してきたのである。
庭園と兵器、ロボットの姿は一緒
またパズーとシータはラピュタの庭園でロボットに会う。墓に花を添え、動物たちと触れ合う心優しいと思えるロボットもその技術も、もともとは兵器のために開発されたものである。庭園のロボットと同じ姿をしたロボットがラピュタの地下に潜んでいて、普段は目につかないようになってる。有事の際にはゴミのように人を殺戮してくのだ。宮﨑駿が庭園のロボットと兵器としてのロボットの姿を同一にした背景には、普段私たちの生活にも兵器として開発された技術が潜んでいることを伝えたかったからなのかもしれない。
インターネットも軍事利用として発達した
文明の発達と軍事の関係は切っても切れない関係にある。たとえば、今や世界中で当たり前のように使用されているインターネットも、もともとは冷戦時代に旧ソ連の人工衛星開発に対抗しアメリカが開発した。また宇宙技術は米ソの宇宙開発競争により飛躍的に発達している。戦争目的の下、私たちの生活が飛躍的に向上してきたことは歴史的事実なのである。
高度な文明の象徴であると同時に強力な兵器でもあるラピュタは、その事実を私たちに訴えかけている。
人類は文明とどう向き合うべきなのか。文明が進化すれば人類は幸せになれるはずだ、と多くの人が信じている。だが一方、戦争で人を殺す兵器開発のために、高度な文明がもたらされたのも事実である。私たちの生活は、戦争で人を殺そうとすればするほど豊かになってきたのだ。
ムスカの考えは本当に間違っているのか?
拳銃を向けるムスカにシータは訴えかける。
「今は、ラピュタがなぜ亡びたのか、私よくわかる。ゴンドアの谷の歌にあるもの。土に根をおろし、風とともに生きよう。種とともに冬をこえ、鳥とともに春を歌おう。どんなに恐ろしい武器を持っても、たくさんの可哀想なロボットを操っても、土から離れては生きられないのよ」
すでに地球上の多くの都市がアスファルトに覆われていて、土を見る事も触れることもできなくなってきている。私たちは既にアスファルトによって、「土から離れた」生活をしてきている。今はまだ未開拓の地域に対しても今後は開拓の手が進められるだろう。ヨーロッパ諸国によるアメリカ大陸の植民地化や日本の明治維新のように、高度な文明が発展途上の文明をすぐに覆い尽くしてしまうからだ。グローバル化によってこの流れはますます加速していくだろう。 先ほどのシータのセリフに対してムスカが言う。
「ラピュタは亡びぬ、何度でもよみがえるさ。ラピュタの力こそ人類の夢だからだ」
私たちはムスカを否定することはできない。この言葉も私たちにとって事実だからだ。私たちは第四次産業革命を迎えようとしている。ロボット技術や宇宙技術は今後、目覚ましい発展を遂げることだろう。そうなれば人類はますますラピュタの文明に近づいていくことだろう。それは、紛れも無く私たち人類が夢見た世界だ。
作品は戦後40年を過ぎた1986年に公開された。冷戦の影響により、各地で内戦や紛争が続いていた時代だった。一方で日本はバブル期に突入し景気は上昇、生活は大きく変化し始めた。「天空の城ラピュタ」は戦争を忘れかけた日本人に対する宮﨑駿からのメッセージなのだ。私たちは戦争や環境破壊など、文明の負の側面から目をそらすべきではない。現実の文明に「バルス」は存在しないからだ。 文明は不可逆的であり、引き返すことも自ら滅亡させることもできない。だからこそ、私たちは、日々進化する文明の中でどう生きていくべきなのかを、真摯に向き合わなければいけない。地球上に文明を築き上げてきた人類だが、それでもいつかは本当に文明を終わらせなければいけない日がくるかもしれない。「天空の城ラピュタ」は、いつか来るかもしれない文明の終焉を描いている。