漫学:アニメや漫画を哲学のように紐解くサイト

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過去を何度もやり直した少女が出した答えとは。「時をかける少女」

こんにちは、東野です。 このブログでは、アニメや漫画の世界を文学のように紐解くことで、作者からのメッセージをより深く理解していきます。 本日の作品は「時をかける少女」。

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 今回は、昨日漫学でレビューをした「おおかみこどもの雨と雪」の細田守が監督している「時をかける少女」について、解説をしていきたいと思います。

高校時代の夏に対する日本人の感情

高校2年生の紺野真琴はひょんなことから、タイムリープの能力を手に入れて、高校2年生の夏を何度も繰り返すようになる。

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 高校2年生、文系・理系の選択迫られ、自分の進路が決まらない真琴。

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「何だかなあ…ずっと3人でいられる気がしてたんだよね、遅刻して功介に怒られて、球取れなくて千昭になめられて」

真琴は、親友の間宮千昭や津田功介とずっと今の関係を保っていたいと考えているが、功介は医学部への進学を考えており、また、後輩の女子から告白をされてしまう。 また、千昭は真琴に告白をするなど、3人の関係が徐々に変化し始める。

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 日本人は、どこかで「高校時代の夏」という時間に対して特別な感情を抱いていると考えられる。それは全力で挑むスポーツ大会の終わりや、受験生へと移行し大人への過渡期を迎えること、また、ただ単に宿題が終わってなかったなど、原因は様々考えられる。

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 日本人は高校時代の夏に対して、「もう一回繰り返したい」「終わってほしくない」という感情を持つと思う傾向があり、ひょっとしたら「時をかける少女」はそんな日本人の感情から生まれたのかもしれない。

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 ちなみに、原作は夏の設定ではなく、原作の「時をかける少女」の主人公芳山和子は、美術館で絵画の修復をする仕事をしている。

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時間を巻き戻すこと

真琴はタイムリープを使って何度も過去をやり直す。最初は時間を戻すことを満喫していた真琴であったが、そのうちに自分がタイムリープをすることで犠牲者が生まれることを知ってしまう。タイムリープによって、何度もやり直すがうまくいかない。

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 その内に、自分のためではなく、人のためにタイムリープを使用するようになる真琴、しかしその結果、親友の功介と藤谷果穂の事故死という最低の結末を迎えることになる。結局、時間を巻き戻すことは根本的な解決にならない。

「Time waits for no one.」

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 これは、作品中で理科室の黒板に書かれていたり、千昭がカラオケで歌っていた歌のタイトルである。 時間は不可逆的に進行してしまう。 一見矛盾するようであるが、「時間を巻き戻すこと」への否定こそ、「時をかける少女」の一つのメッセージである。

大切なのは、過去をやり直すことではなく、未来へ踏みだすこと

「待っていられない未来がある」これは「時をかける少女」のキャッチコピーである。 一見するとタイムリープ(過去を繰り返すこと)をテーマにしたこの作品に違和感を感じる人も多いのではないだろうか。 しかしこの作品は、単に過去を繰り返すだけのストーリーではない。過去を何度も何度も繰り返した少女が、未来へ踏みだすことを決心するストーリーなのだ。 作品の最後での真琴のセリフ、

「私もさぁ、実はこれからやることが決まったんだ」

いつまでも過去に居続けようとするのではなく、未来に向けて動き出す。

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 高校の夏は何度も繰り返してほしいと思うかもしれない。でも私たちは不可逆な時間を大切にし、一歩ずつ前に進まなければいけない。そこに、この作品のメッセージがある。