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ハウルの動く城のネタバレと考察「若者はなぜ戦争にいかなければいけないのか?」

こんにちは、東野です。 このブログでは、アニメや漫画の世界を文学のように紐解くことで、作者からのメッセージをより深く理解していこうとしています。 本日の作品は「ハウルの動く城」について。

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ハウルの動く城」はよくわからない?

私の周りでは「ハウルの動く城」は、よく分からない。という声が聞くことが多い。確かに一回見ただけではこの作品が何を言いたいのか、疑問に思ってしまう方も多いことだろう。 宮崎駿さんは作品の中に現代社会の課題を投影することで有名だ。「ハウルの動く城」にも宮崎駿から見た現代社会が表現されている。 では、「ハウルの動く城」のメッセージとはなんなのか?メッセージを紐解く鍵を、ご紹介したいと思う。

本当に大切なことは、外見より内面の美しさ

主人公のソフィーは、18歳。自分に自信がなく、長女として帽子屋で働いている地味な女性。「ハウルは美人しか狙わない。」と言って自分の容姿に対して否定的である。

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お洒落で美人なレティー

一方、妹のレティーはパン屋の看板娘、お洒落な美人で男性に人気者。ソフィーと対局に位置する存在。

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レティーは、ソフィーに帽子屋で働くことを止めさせようとするが、

「私、長女だから」。

ソフィーは、自分の人生に受け身になってしまっていた。 やがて、荒れ地の魔女の呪いによって、ソフィーは、90歳のおばあちゃんの姿になり、帽子屋を出ていかなければいけなくなる。

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そうして辿り着いたのは、魔法使いハウルの城だった。

外見にこだわるハウル

ハウルは外見の美しさとは対照的に、部屋の中は汚く、虫まで住んでいるという有り様。さらに、ソフィーの掃除が原因で魔法で染めていた金髪が元に戻ってしまうと、すっかり落ち込み、闇の精霊を呼び出してしまう始末。

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「もう終わりだ。美しくなかったら、生きていたって仕方がない。」

ソフィーは落ち込み緑のドロドロまみれになったハウルを看病する。 ハウルの部屋は、おまじないだらけの部屋だった。

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「僕は本当は臆病者なんだ。」

今まで外見にこだわっていたハウルだったが、献身的なソフィーとの関わりにより、自身の弱みをさらけだすことができるようになっていく。 その後は、髪を金色に染めなおすこともなく、服装も以前と比べて簡素になり、着飾ることがなくなっていく。

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荒れ地の魔女

荒れ地の魔女も魔法によって、本来の年齢をごまかしていたが、サリマンの罠によって、魔力を奪われてしまい、本来の老婆の姿となってしまう。

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最初は荒れ地の魔女によって90歳の姿をしていたソフィーの外見は、内面の若さにより姿が変化する。やがてハウルに恋したソフィーは、徐々に元の姿を取り戻したり、おばあちゃんの姿に戻ったりと変化するようになる。 現実の世界に置き換えて考えてみても、年をとっても心が元気な人はいるし、若者なのに無気力な人もいる。日本はますます少子高齢化になっていくが、大切なことは実際の年齢ではなく、私たちが今どのくらい世の中にワクワクしたり、ドキドキして生きているかという、心の年齢の方なのかもしれない。

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「ソフィーの髪の毛、星の光に染まっているね。綺麗だよ。」

このセリフは、ソフィーの髪の色が変化したのではなく、ハウルの内面が変わったためだろう。かつては自身の髪の色を気にしていたハウルであったが、心臓を取り戻したことで、美しさに対する感じ方が変化している。 日本人は、高級バッグや洋服で自分を着飾ることに一生懸命だ。男性が香水や化粧をすることも珍しくなくなった。だけど宮崎駿は外見を着飾ることよりも、内面の美しさの方が大切であることを伝えたかったのだ。

ソフィーとやっかいな家族

ハウルの動く城」を理解するには、作品の登場人物も注意深く見ていかなければならない。ハウルに登場する人物たちは、現代の日本人の比喩になっている。

ハウル=若者

ハウルは現代の若者を象徴している。虚勢をはるが臆病。片付けができない、お湯を無駄使いするし、女の子にふられて落ち込む、オシャレにうるさい。などなど、枚挙に暇がない。

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マルクル=子供

食べ物は好き嫌い、しっかりしているようで、食べ方などマナーについてきちんとした教育を受けていない。

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「わしは、イモは嫌いじゃ」 「わしは、魚キライじゃ」

荒れ地の魔女=老人

見栄っ張り、介護が必要、ぐずる、ずる賢い。現代の老人を代表するのが荒れ地の魔女。

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ヒン=老犬

言うことを聞かない、手間がかかる。

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本当に厄介なキャラクターばかりで、現実で同じ屋根の下に住んだら最悪のシェアハウスになってしまうと思う。そんな彼らに対して、ソフィーは、血がつながっているわけではないのに、全員に「家族」のように「愛」をもって接していきます。 そして、このソフィーの姿こそ、宮崎駿が作品で伝えたかったことなのだ。

現代社会はやっかいな人ばかり

つまり、宮崎駿が言いたかったのは、「現代社会ってやっかいな人ばかりですよね。若者も老人も子供もペットも。だけど、そういう人を恐れたり、嫌悪感を抱くのではなく、愛をもって接してみませんか」ということなのである。 作品の終盤で

あたしゃ知らないよ。何も持ってないよ。

カルシファーを渡さない荒れ地の魔女。ひょっとしたら、ハウルが死んでしまうかもしれないというシーンでさえ、ソフィーは無理やり返してもらおうとはしない。

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「お願い」

そう言いながら荒れ地の魔女を抱擁をするソフィー。 わがままな老人に対して私たちは怒ってしまいがちかもしれないが、本当に大切なことは、そういうやっかいな人間に対しても愛をもって接するということなのだ。

コラム:動く城について

タイトルにもある「動く城」とは、なんなのか。そもそも、なぜ、あんなにごちゃごちゃしているのか。

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「動く城」=「生活の場」である。最初、ハウルマルクルもキチンとした朝ごはんを食べていなかった。部屋が汚く、マルクルは食べ方のマナーも知らない。

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物語の最後で「動く城」は、芝生があったり、洗濯物が干されるなど生活感がでているが、「一人暮らしの部屋でも、子供の部屋でも老人ホーム、ペットの小屋だろうが生活の場はやっぱりきちんとしておきなさい」というメッセージが込められている。 ちなみに、城は本来動かないものだが、これが動くということは、現代の生き方を表している。最終的には、「動く城」は空を飛ぶが、「ハウルの動く城」=「若者の自由な生き方」を象徴しているのかもしれない。

なぜ、ハウルは戦争にいくのか?

キャラの理解が深まったところで、宮崎駿のメッセージをさらに紐解いていこう。 原作では、城の扉のダイヤルを黒にしても、完全な無の世界にしかつながらない。原作の『魔法使いハウルと火の悪魔』では、映画「ハウルの動く城」のように戦争を舞台にした設定もない。しかし、映画では、黒のダイヤルには戦争が広がっている。つまり、戦争については、宮崎駿が意図的に加えた設定だ。

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そして、ハウルは、意味もわからず戦争へ招聘されている。 「ハウルの動く城」は2004年に公開されているが、背景にあるのは、2001年「アメリカ同時多発テロ事件」。同年11月には「テロ対策特別措置法」施行・公布、日本は海上自衛隊の艦船3隻がインド洋に向けて出航することとなり、日本人も戦争とは無縁ではなくなった時代だった。

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さらに、2003年7月には通称「イラク復興支援特別措置法廃止法案」が成立し、人道復興支援活動・安全確保支援活動を行うこと目的に自衛隊イラクに派遣されるようになった。 理由もなく戦争に巻き込まれていくハウルと、イラクへ派遣される自衛隊は、どこか通じているものがある。

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また、物語の最後のサリマンのセリフは、ひょっとしたらアメリカに向けられたものなのかもしれない。

「このバカげた戦争を終わらせましょう。」

2015年7月に「安全保障関連法案」が強行採決された。日本は再び、国際紛争にあたっている米軍や他国軍の後方支援を目的に、自衛隊の海外派遣が可能となった。日本人が「支援」の名目で戦地に赴くこともあるのだろう。「ハウルの動く城」には、宮崎駿の戦争に対する切実な想いが込められている。