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となりのトトロネタバレ解説「糸井重里がキャッチコピーに込めた想い」

1988年に公開されたジブリの代表作「となりのトトロ

日本が近代化が進む中、田舎に引っ越す家族

今の私たちの便利で快適な生活とは程遠い生活

だけど、そこには日本が育んできた素晴らしい文化があった

 

作品テーマ:近代化で日本人 が失うもの

 

■本日の作品は「となりのトトロ

人と自然が共生していた頃の物語

作品は、田舎に引っ越したサツキとメイから見た日本の自然が描かれている。

それは、彼女たちにとって奇妙で不気味な世界だった。

 

明るいテーマ曲やかわいい登場人物からは意外に思うかもしれないが、トトロには、「自然への畏怖の気持ち」が表現されている。

 

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神木に挨拶する草壁一家

 

「むかーしむかしは木と人は仲良しだったんだよ」

 

自分たちの都合で自然破壊を繰り返し、自然をコントロールしようとする。作品はそんな現代人にかつて日本にあった「自然との向き合い方」を伝えようとする。

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トトロがくれたどんぐりが芽吹いたことを喜ぶ。サツキとメイ。

 

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トウモロコシを収穫するメイ。

 

自然との共生、それは数十年前の日本には確かに存在していたのである。

 

近代化によって失われた想像力

サツキとメイが引っ越した先は西洋式と和式が併存する家だ。また、サツキたちの父親であるタツオの仕事場が西洋側であることは偶然でないだろう。

 

タツオは大人になり、西洋(近代)側の人間になってしまっていたのだ。

(だからトトロを見ることができない。)

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西洋式と和式が併存する家

 

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タツオの仕事場は西洋側。西欧側(近代側 )になったタツオにはトトロが見えない

 

サツキとメイにはトトロやネコバス、まっくろくろすけが見える一方でタツオにはもう見ることはできない。

 

妖怪やお化け。

 

自然に接することで、私たちは想像力を刺激されていたのだ。

 

となりのトトロ」が公開された時の糸井重里のキャッチコピー 「このへんな生きものは まだ日本にいるのです。たぶん。」

 

近代化が進み日本の文化が薄れていく中で、日本人が感じることができなくなったものを作品は伝えようとしている。

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 メイが描いたトトロ。自然が子どもの想像力を育む。

 

不安で不便だからこそ生まれる絆の大切さ

サツキが住む家には、ススワタリが住んでいてぞわぞわとしている。風が強い夜には家が飛んでしまうのではないかと不安になる。 

 

また、井戸から水を汲み上げなければいけなかったり、お風呂をわかせるために火を起こさなけれいけなかったり不便な思うことはたくさんあるだろう。

 

でもそういった不安さや不便さがあるからこそ、強い絆が生まれるのかもしれない。

 

私たちは便利で快適な生活を求めるあまりにどこか絆が希薄になってしまってはいないだろうか。

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家族でお風呂。みんなで笑うことで不安な気持ちをはねのけようとする。

 

また、作品の最後ではメイが迷子になってしまう。そんな時は近所の人が全員でメイの捜索に協力する。

 

もし今メイのような迷子がでたら、近所の皆さんは一緒になって探してくれるだろうか?

警察にしか頼ることができない。現代社会はどこか人間の絆の希薄になりがちだ。

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メイの捜索にあたる近所の人たち。

 

迷子になっていたメイを抱きしめるおばあちゃん。彼女の涙からは絆の大切さが感じられる。

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私たち日本人が忘れているものとは?

作品の背景にあるのは都市開発。つぎつぎと自然が破壊され、文化やコミュニティが失われていく。

 

コンクリートの上しか歩いたことがない子供は、スーパーで売っている野菜しか知らない。近所付き合いが希薄になり隣に誰が住んでいるかもわからない。

 

便利で快適な生活を得る一方で、私たちは多くのものを失ってしまったのだろう。

もはや喪失したことさえ無自覚になってしまっているのかもしれない。

 

糸井重里はもう一つのキャッチコピーを作っている。

 

「忘れものを、届けにきました」

 

日本が本来もっていた大切な文化をトトロは今に伝えようとしている。