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「おおかみこどもの雨と雪」が語る、現代の「子育て」のあるべき姿

こんにちは、東野です。 本日は細田守の「おおかみこどもの雨と雪」の解説。

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作品のテーマは、「育児」

女性は子供を授かった時から母親になる。子供を育てることは大変で苦労がともなうものだ。子供のために全身全霊を捧げ、そうして苦労して育てた子供もいつか自分のもとを去っていってしまう。それでもいいと思える「お母さん」は強く、たくましく、そしてなにより愛と幸せに満ちている。

人生は、ハッピーエンドからが大変

大学生の花は、ある日大学で出会った一人の男と恋に落ちる。男はニホンオオカミの末裔。そして花は男との間に子供を授かる。

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 花は、おおかみの姿の子供が生まれてしまう可能性があるため、病院でもなく助産師にお願いすることもなく、アパートで出産をする。一人目の女の子は「雪」二人目の男の子には「雨」と名前をつける。

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 しかし、雨が生まれてすぐに男は死んでしまう。花は二人の子供を一人で育てなければいけなくなったのだ。 わずかな貯金での生活。誰にも相談できない花は育児を本で勉強をする。ぐずる子供、病気になると小児科と獣医のどちらに相談すればよいかわからない。他のアパートの住民からは、毎晩泣く「雨」をしっかり躾をしろと怒られ、大家からはペットを飼っているのではないかと疑われ、児童相談所からは定期検診や予防接種を受けていないことで、虐待やネグレクトを疑われる。 周囲の誰にも相談できない中、母としての苦悩の日々が続く。 シンデレラであれば、王子様との結婚までがゴールである。しかし、人生において本当に大変なのは、ハッピーエンドからなのである。 花は、一つの決断をする。

日本で失われつつある近所付き合いの大切さ

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 人間としてしか生きることができない都会暮らしを諦めた花は、雪と雨が、人間としても、狼としても生きることができるよう、田舎への引っ越しを選択する。

これからどうしたい、人間か狼か。引っ越そうと思うんだ、どちらでも選べるように

しかし、田舎暮らしは楽ではない。家の修繕から、自給自足のために畑を作る。慣れない作業に手は絆創膏でいっぱいになる。 そんな時に地元の農家の韮崎が、花に畑作りを教えてくれるようになる。

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 ぶっきらぼうな指導ではあったが、韮崎のおかげで野菜作りは成功し、それをきっかけにご近所付き合いも始まるようになる。

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本当は人目を避けてここに引っ越してきたはずだったのに……。 いつからか里のみんなにお世話になってる。 最初は大変だったけど、なんとかここでやっていけそうかな。

夫に先立たれ、一人でなんとかしなければいけないと気を張って生きてきた花だったが、周囲の人に支えられて少しずつ田舎暮らしに馴染んでいく。

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育児の大変さは続いていく

ようやく、田舎暮らしに慣れてきた花たちだったが、雨が誤って川に落ちてしまい溺れて死にかけてしまう。なんとか一命を取り留めたものの、花としては人生で一番怖い思いをすることとなった。

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 やがて、雪が小学校に入学すると明るい性格の雪は友達もでき順調に学校生活を送るようになる、はずだったが、雪は転校生の藤井草平を傷つけてしまうことになる。花との約束を守れず雪はおおかみになってしまったのだ。

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 その後、雪は不登校になってしまうが、草平のおかげで再び学校に通えるようになる。一方雨は、学校には通わずに、雨たちが住む山一帯を治めるアカギツネを「先生」として慕うようになる。

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 事故で死にそうになったり、他の子供を怪我をさせてしまい不登校になったり、田舎に移った花の試練はまだまだ続いていた。

雪も雨も自分たちの生き方を探しはじめる

台風の日に、雨は再びアカギツネの先生のところへいく、先生は脚を怪我して動けなくなっていて、もうすぐ死ぬ。先生の代わりに山一帯を治める

「もう、山へはいかないで」

という花の願いとは裏腹に雨は山へ向かい、先生の後を継ぐことを決意する。

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 雪は雪で、台風のため学校に草平と二人で取り残されてしまう。雪は教室の中で、ずっと草平に言わなければいけないと思っていたことを明かす。それは、自分がおおかみ人間であること、そして以前草平を傷つけたのは自分であること。「おおかみこどもであることは私たちだけの秘密」という花との約束を破り、自立し始めていたのだった。

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 雨を心配して、台風の中に山にいく花。

「雨、どこかで震えているんじゃない?帰れなくて、泣いているんじゃ……私が、守ってあげなちゃ」

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 雨のことを心配をする花であったが、逆に雨に助けられることになる。そこにはおおかみとして生き、先生の後を継ぐことを決めた雨がいた。 台風の後、雨は遠吠えをする。それは、自分の世界を見つけたことを知らせる。雨から花へのメッセージだった。

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子供は成長し、親元を巣立っていく

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元気で!しっかり生きて!

10年間、ほとんど一人で苦労しながら、育てた息子が一人で生きていける。そう感じ送る言葉だった。あれだけ苦労して育てた子供をその言葉だけで、見送らなければいけないのは、母親として、どれだけ辛いことであろう。

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 やがて雪も中学校の寮に入るため、家から出て行くことになる。 まるでおとぎ話のように一瞬だった。花は12年の育児をそう振り返って、物語は終わる。

「おおかみこども」は、特別な子供ではない

無邪気で、元気で、病弱で、わがままで、甘えん坊で、可愛くて、泣き虫でいつも一緒にいなければいけないはずなのに、気がついたらいつのまにか一人だちしていて。 一生懸命育てたはずなのに、あっという間に自分の手を離れていってしまう。

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シングルマザーの問題、待機児童、幼児虐待・ドメスティックバイオレンスなど子育てについて様々な問題が発生する中、母親としてあるべき姿、そうであってほしい姿を描いた作品である。 「おおかみこども」は、特別な子供ではない。親にとって、子供はすべて「おおかみこども」なのである。 厚生労働省の発表では、、日本における児童のいる世帯に対する母子家庭世帯の割合は昭和63年では3.4%だったが、作品が公開された平成24年には6.8%と倍になっている。母子家庭の割合は年々増加傾向にある。その中には花のような一人で育児をしなければいけない母親もいるだろう厚生労働省

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この作品は、母親に対する、尊敬や感謝、なによりも応援のメッセージなのだ。